Instagramコメントの感情バーストが示す、セリエAチームのシーズン順位との関係

Instagramコメントの感情バーストが示す、セリエAチームのシーズン順位との関係 アイキャッチ画像 セリエA全般

サッカーを見ていると、試合の結果や内容によってファンの感情が大きく揺れ動きます。SNS上では特にその変化が顕著に現れます。

この記事で紹介する「感情バースト」とは、ある感情が短期間に集中して表れる現象のことです。例えば、ある試合の直後に怒りのコメントが一気に増える、といった状態です。
この感情の流れを分析すると、試合結果やシーズン成績と不思議なつながりがあることがわかりました。

感情のバースト性とは?

今回の研究(Citraroら、2025)では、「バースト性(Burstiness)」という指標を使っています。
これは、ある感情が短時間に集中して現れる度合いを数値化したものです。例えば、ある試合後にコメント欄が「怒り」で埋まると、それは怒りのバースト現象です。一方、喜びや応援コメントがシーズンを通して均等に出る場合はアンチバースト傾向と呼ばれます。

この「バースト」はSNS時代のサッカーファン文化をよく象徴していると思います。試合中はスタジアムの中だけで共有されていた感情が、今や世界中にリアルタイムで拡散されます。

インスタグラムのコメントからセリエAファンの感情パターンを分析

研究対象は、2023-24シーズンにおけるセリエA、セリエB、Lega Pro(セリエC)の全83クラブの公式インスタグラム投稿。

クラブが投稿する試合結果やハイライト動画に寄せられたコメントを「喜び」「怒り」「悲しみ」「恐れ」の4種類に分類し、その割合を分析しました。感情判定にはイタリア語SNS向けに調整されたAIツール「feel-it」が使われています。

さらに「その投稿で最も多い感情」を抽出し、時間軸で並べて「感情タイムシリーズ」を作成。これにより、シーズンを通じた感情の波が可視化されました。

※SNS分析はあくまで「オンラインの声」なので、スタジアムの雰囲気や現地文化と100%一致するわけではない点は注意が必要です。

喜びと怒りはどう違う?感情の出方のパターン

分析の結果、喜びは比較的安定して表れ、怒りは短期的に爆発する傾向が見られました。

  • 喜びのバーストが少ない=どんな時も一定の応援ムードが続く【アンチバースト型】
  • 怒りは試合の結果や出来事に応じて一気に高まる【バースト型】

さらに論文の図表を見ると、チームによってデータの違いがくっきりと出ていました。
その中でも特徴的だったチームの例を紹介します。

  • 喜びのバースト性が最も低い【アンチバースト型】チームはパルマ(セリエB1位・昇格を決める)。シーズンを通して喜びの感情が安定しており、どんな結果でも一定のポジティブな反応が続いていました。パルマの安定感はこのシーズン昇格争いを有利に進めていたことと関係がありそうです。
  • 喜びのバースト性が最も高い【バースト型】チームはフィオレンティーナ(セリエA8位・ECL出場権獲得)。特定の試合や出来事で喜びの感情が集中して爆発する傾向が強く見られました。フィオレンティーナは、勝利や劇的な展開の試合でファンが一気に盛り上がる「イベント型」の熱狂が特徴的です。
  • 怒りのバースト性が最も低い【アンチバースト型】チームはウディネーゼ(セリエA15位)。試合結果に関わらず怒りの感情があまり集中せず、むしろ常に一定の水準で続くタイプでした。ウディネーゼの低バースト性は、ファンがある意味で冷静(冷めてる?)かつ長期的にチームを見ているからかもしれません。
  • 怒りのバースト性が最も高い【バースト型】チームはパレルモ(セリエB6位・昇格プレーオフで敗退)。特定の試合や出来事で怒りが短期間に集中して噴出する傾向が強く見られました。パレルモは感情表現が熱く、結果に対して即時に反応する文化が感じられます。シチリアのチームらしいですね。

これらの違いはファンの性格やクラブの文化とも関係しているように思えます。勝っても負けても楽しむ人もいれば、結果に敏感に反応する人もいますよね。

感情の「バースト性」とチーム成績の関係

この研究の核心はここです。喜びのバースト性はシーズン最終順位と有意に相関していました。多変量回帰分析の結果、喜びのバースト性を外すと予測精度(決定係数R²)が32%も低下したとのことです。
これは「ファンの喜び方」にチームの成績を説明する力があるということだと思います。

普通はゴール数や守備力のような”選手や戦術”のデータが注目されますが、ファンの感情パターンも成績予測の材料になるかもしれません。

プレシーズンの期待値と感情パターンの関係

各チームの市場価値(MV)は、開幕前の期待値の指標として使われました。期待値と最終順位の差(Δmv)がプラスなら予想以上、マイナスなら予想以下の成績ということです。

分析では、期待を上回ったチームは喜びのバーストが少なく、安定的な応援が続く傾向が見られました。一方、期待を裏切ったチームは怒りのバーストが多くなりました。

思ったより強かったチームはファンが安心して応援でき、逆に裏切られた場合は怒りが噴出するというのは感覚的にも納得です。

感情分析が示すファン心理の奥深さ

喜びのアンチバースト型は「忠誠心の高さ」、怒りのバースト型は「結果への依存度の高さ」を示している可能性があります。
特にセリエBの一部クラブは、降格しても喜びのパターンが安定しており、成績よりクラブとのつながりを重視していると考えられます。

これは“結果がすべて”ではない応援の形を示していて、とても興味深いです。プロヴィンチャ(地方)のクラブや歴史あるクラブのファンほど、この傾向が強いのかもしれません。

研究結果から見える今後の可能性

この研究は1シーズンのデータしか扱っていませんが、長期的に分析すれば、クラブごとの感情パターンが「文化」として見えてくると思います。

また、スポンサーやマーケティング戦略にも活用できそうです。例えば、喜びのバーストが大きいチームでは勝利直後のグッズ販売が効果的かもしれません。

まとめ

  • 喜びはアンチバースト型(安定型)、怒りはバースト型になりやすい
  • 喜びのバースト性は順位予測に有用
  • 期待値とのズレが感情パターンに影響
  • 安定的な喜びは忠誠心の高さを示す可能性

このファン感情分析は、サッカーだけでなく、スポーツの見方を変える新しい視点を与えてくれました。今後、データを複数シーズン分析すれば、より精度の高い予測やファン文化の理解が進むはずです。
サッカーの魅力はピッチ上のプレーだけではなく、ファン同士が作る感情のうねりにもあるということを感じさせてくれる研究でした。

参考

Citraro, S., Mauro, G., & Ferragina, E. (2025)「Temporal Dynamics of Emotions in Italian Online Soccer Fandoms」
https://arxiv.org/pdf/2506.11934

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